<金管楽器のピストンによる音程の誤差>
管楽器は管の長さが長くなるほど音程が低くなります。
木管楽器は指で穴を塞いで管を長くします。リコーダー等でも全部の穴を塞いだ時に最低音が鳴ります。
金管楽器はピストンを押すことで、振動する空気柱をそれぞれの管に迂回させて長さを変え、音程を変えます。
ただ音程を正確に変えるためには、ある決まった割合で管を伸ばすことが必要です。
分かりやすくするために管の長さを10パーセント伸ばすと音が半音下がるとします。
例えば1m の管から出る音程より、半音低い音を出すためには10センチの管を足して1m10cm にすればいいわけですが、そこからもう半音低い音を出すためには1m10cm の管に、その10パーセント、つまり11cm の管を足さなくてはいけません。
1m の管を10パーセントずつ伸ばしていくと下の様になります。
半音下げるために必要な管全体の長さ(と延長分) | 指使い | 実際に伸びる管の長さ | 誤差 |
100cm | 0 | | |
110(10)cm | 2 | 10cm | 0 |
121(11)cm | 1 | 21cm | 0 |
133(12)cm | 1+2(3) | 31cm | 2cm |
146(13)cm | 2+3 | 41cm | 5cm |
161(15)cm | 1+3 | 52cm | 9cm |
177(16)cm | 1+2+3 | 62cm | 15cm |
この表はあくまで10パーセント管長が延びれば半音下がると仮定して作ったものですが、半音下げるために必要な管の長さはこのようにだんだんと長くなってきます。
ところが、金管楽器の各ピストンに付いている管はいつも同じ長さなので、ピストンを一つだけ押さえた時には正確にそれぞれの音程(1は1音、2は半音、3は1音半)を下げられるように設計されていても、既に他のピストンを押さえて元の管の長さが長くなっている時には必要な長さ分は伸ばせないことになります。
この誤差は管が長くなるほど大きくなって1番と3番のピストンを押さえていてそこに2番を加える時、一番大きくなります。コルネットやアルトホルンでは倍音の問題もあって楽譜上の低いド#がかなり高めになります。ユーフォニアムでは低い「シ」で、チューバではそのオクターブ下の「シ」です。
1番3番を押さえた「レ」の音等も同じ理由で高くなりますから、こういう音を吹く時には注意が必要です。ユーフォニアムでは「ド」です。
コルネット等では、1番管、3番管に付いている指を掛けるためのフックやリングで、吹きながらチューニング管を抜いて音程を調整することも出来ますが、音域の低い楽器では管の長さに比例して音程の誤差も大きくなり、その程度の調整では間に合わなくなります。
オクターブ低い楽器は管の長さが2倍ですから、コルネットで1センチ抜いて調整出来る音程をユーフォニアムでは2センチ、チューバでは4センチ抜かなくていけません。
そのためユーフォニアムやチューバには1番管と3番管を足した長さ(上の表で52センチ)よりも少し長めで、2音半分の音程を下げるのに必要な本来の長さ(上の表では61センチ)の4番目の管(ピストン)を付けている楽器もあり、上手な人の使うチューバには(音程調整のためだけではなく音域を広げる目的もありますが)さらに5番目、6番目のヴァルブとチューニング管を付けているものもあります。
トロンボーンはスライドで音程を自由にコントロールできますから、こういう問題は起きませんが、音程に注意すれば各ポジションの間隔は遠いポジションになるほど広いはずです。